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杏林大学医学部 循環器内科学教室
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虚血性心疾患グループ

虚血性心疾患グループ

概要

 虚血性心疾患とは、主に動脈硬化によってプラーク(粥腫)と呼ばれる脂質に富んだ構造物が、心臓を栄養する血管(冠動脈)の壁内に沈着することで、血流の悪化や閉塞を来たし、狭心症や心筋梗塞、時として突然死の可能性もある、非常に恐ろしい疾患群です。我々は主にこの冠動脈内に生じた動脈硬化をカテーテルと呼ばれる細い管を用いて治療を行っています(カテーテルインターベンション)。当グループの特色として、全身血管の動脈硬化性病変カテーテル治療を行っていることが挙げられます。動脈硬化は糖尿病、高血圧、脂質異常症、喫煙等の生活習慣が大きく関わる病気であり、それは全身の血管に影響を及ぼします。当院では全身病としての動脈硬化を診断・治療する見地から、虚血性心疾患だけでなく末梢血管疾患のインターベンションを中心に今後は、心臓弁膜症に対するカテーテル治療へとその治療対象を拡大させるべく、現在その準備を進めています。

虚血性心疾患

一般的に虚血性心疾患の治療は、
 ① 薬物治療
 ② 冠動脈インターベンション治療
 ③ 冠動脈バイパス手術
の3種類の方法がありますが、現在は薬物療法を基本とした冠動脈インターベンションが治療の基本となっています。 
 具体的に冠動脈インターベンションは主に手首、肘、ももの付け根の動脈を局所麻酔にて穿刺し、カテーテル(細いストロー状の管)を冠動脈入口部へ挿入します。穿刺部位は病変の状況や患者さんの状況によって、最適な部位を選択しています。冠動脈入口部へ挿入されたカテーテルより、造影剤を冠動脈内へ注入し狭窄や閉塞部位を判断し、その後治療を行っていきます。治療としては、風船(バルーン)拡張、ステント留置が主ですが、場合によっては冠動脈内の血栓(血の塊)を吸引除去したり、病変が非常に固くなっている場合はロータブレータと呼ばれるダイヤモンドの粉が先端についたドリル状のもので切削をおこなうことや、DCAと呼ばれる比較的柔らかいプラークを切り取る装置を用いることもあります。 
 また当院では、治療手技を正確に安全に行うため、冠動脈内画像診断にも力をいれています。血管内超音波(IVUS)や冠動脈光干渉断層法(OCT)を用いた従来の方法に加え、近赤外線分光法血管内超音波(NIR IVUS)病変の性状判断や治療効果の判定を行っております。

虚血性心疾患の治療

① 薬物医療法

抗血小板薬、高コレステロール血症治療薬等

② 冠動脈インターベンション

a. 風船(バルーン)拡張
b. ステント留置
c. 血栓吸引療法

冠動脈内が血栓(血液のかたまり)で閉塞している場合に吸引除去を行い、血流を改善します。

d. 薬剤コーテッドバルーン(DCB)による拡張

バルーン表面に薬剤が塗布してあるもので、主に過去に留置したステント内が再度細くなった場合(再狭窄)や、ステントが留置できないような細い血管の拡張に用います。

e. ロータブレータ−

動脈硬化が高度に進行した(石灰化)状態で非常に固くなった場合、病変を削り拡張させる目的で使います。

f. DCA(方向性冠動脈粥腫切除術)

③ 冠動脈バイパス手術

患者さんの状態、病変の状態等総合的に判断し、外科的手術が望ましい場合は、循環器内科と心臓血管外科の話し合いを行い依頼します。

新しい診断、治療技術への取り組み

 現在糖尿病薬やコレステロールを低下させる新薬の登場により、虚血性心疾患の原因となる因子のコントロールは劇的に改善されてきました。しかしさらなる食生活の欧米化によって糖尿、脂質異常症、高血圧患者は増加しまた、急激な高齢化に伴い、複数の疾患を持つ患者さんも増え、我が国の虚血性心疾患の治療は年々高度・複雑化しています。
 その一つとして抗血小板薬による易出血性があります。ステントを留置された患者さんは一定期間抗血小板薬と呼ばれる血液がサラサラになる薬を内服しなければなりません。それは同時に出血しやすくなるということでもあります。しかし、患者さんが高齢化するにつれて心疾患以外の疾患をもつ割合が高くなると、他臓器からの出血リスクが高くなったり、また転倒等により外傷性の出血のリスクも高くなることがありえます。必要最低期間の抗血小板薬の使用が望ましいですが、現在のところ、早期に血小板薬を減量する指標がまだ十分ではありません。そのため、我々はステント留置後の血管内超音波や光干渉断層法を用いて、慢性期のステントの拡張と圧着を評価し、出血リスクの高い患者さんに関しては早期の抗血小板薬の減量を考慮するといった、患者さんひとりひとりに合わせた最適な評価を行っています。
 また、あらたな診断装置を用い動脈硬化病変の評価を試みています。それは光分光法血管内超音波と言われる新しい血管内診断装置であり、従来の画像診断と全く同じ方法で冠動脈内プラーク(粥腫)の“あぶら”の程度を評価できます。“あぶら”は動脈硬化の進行や急速な悪化に直結するものであり、それを評価することによって、今後新たに虚血性心疾患の生じる可能性が高い病変、患者の把握ができる可能性があります。また高コレステロール治療薬の冠動脈プラークの効果判定にも用いることができる可能性があり、現在臨床研究を実施中です。

A:狭心症患者の冠動脈造影検査所見。左冠動脈前下行枝に多発性の狭窄を認めている(矢印)。
B:同患者の左冠動脈前下行枝の近赤外線分光法血管内超音波所見。血管内超音波にて冠動脈内に狭窄を伴う粥腫をみとめ(矢印)、同時に近赤外線分光法によりその粥腫は脂質に富むことが黄色で示されている(*)。