研究グループ及び研究課題
上記5つの研究グループがあります。個人が複数の研究テーマを持っており、研究テーマにより研究班の枠を超えた研究グループが幾つか存在しています。
当科のポリシーは、「大学では、研究のみを行うのではなく臨床のトレーニングも同時に行い、研究と臨床ともに秀でた医師を育成する」ことです。したがって、大学院生は他の教室員と同じように病棟業務や病院の当直を行います。しかし、研究テーマによっては、病棟勤務から一定期間フリーになり研究に専念することもあります。
入局とともに大学院に進む場合は、1年目から下記の研究班に配属され研究テーマが与えられます。4年目には論文を完成させ学位審査に臨みます。臨床と研究の両立はかなりハードですが、一流の研究者かつ臨床医になることを目指します。当教室での大学院の4年間は一生のうちで最も充実した期間となることは間違いないと考えます。
入局後に大学院生にならなくとも、入局後すべての検査含めた手技、また病棟管理を会得して、入局3年目から各班に配属され、専門性を高め、かつ研究テーマが与えられ、論文を4〜6年目で完成させることを目指します。
心臓カテーテル班
グループ長 小山幸平 講師
虚血性心疾患、末梢血管疾患、心臓大血管の構造的疾患. (structural heart disease)に対するカテーテルインターベンションが主な仕事になります。年間350-400例のPCI(経皮的冠動脈インターベンション)、80-90例のEVT(血管内治療)、30例のTAVI(経カテーテル的大動脈弁挿入術)を行っています。
虚血性心疾患に対しては、血管内超音波をはじめOCTやNIRSといった血管内イメージングを複数取り入れ、病変の詳細な観察を行い、臨床、研究に応用しております。また当院の特徴として、急性心筋梗塞等の緊急疾患に対する治療が多いため、ショック等の重症例に関してはECMOに加えて、インペラ(補助循環用ポンプカテーテル)による補助循環を積極的に活用して治療を行っております。
末梢血管疾患に関しては、当院の特徴である重症下肢虚血の診療に積極的に取り組んでおります。創部の治療や外科的バイパス手術等の総合的な治療が必要であるため、当院形成外科と連携して治療を行っております。
2019年より開始しましたTAVI(経カテーテル的大動脈弁挿入術)も、順調に症例を伸ばしており、大動脈弁、TAVI弁のCT解析やリハビリと連携して、術後の身体機能評価を行い診療、研究に応用しています。また2023年より僧帽弁閉鎖不全症患者に対し、MitraClip (経皮的僧帽弁接合不全修復術)を開始しております。これらにより、外科的手術が困難な弁膜症患者さんに対し、低侵襲な治療が可能となっています。
進行中の研究内容は
- 高リスク冠動脈疾患患者における、近赤外線分光法血管内超音波を用いた冠動脈プラークの進展に関する前向き観察研究
- 高度石灰化を伴う冠動脈病変に対するカッティングバルーンの治療効果に関する臨床研究 近赤外線分光法血管内超音波(NIRS IVUS)による探索的検討
- 重症下肢虚血に対するEVTにおけるエンドポイントとしてLSFGの有用性の検討
- 重症下肢虚血の虚血評価法として各モダリティーの比較検討
などがあります。新規治療デバイスの治験や、多施設共同研究にも積極的に参加し、他施設との連携も大切にしています。
不整脈班
不整脈センター長 副島京子 教授
近年の不整脈治療不整脈の進歩は著しく、“治らない不整脈”が“治るように、またより安全な治療に進歩しています。治療に用いられる放射線被曝を可能な限り低減できるような三次元マッピングシステムの進歩により、解剖学的、電気生理学的情報を詳細に視覚的に確認し、正確な治療が可能です。
不整脈チームでは、難治性不整脈―持続性心房細動、器質的心疾患に合併する心室性不整脈を積極的に行い、どのような治療が安全で効果的かの研究を継続して、安定した調律中に心室頻拍の回路を同定する方法を同定する方法を発表しています(J Cardiovasc Electrophysiol. 2020;31(2):440)。今後さらに罹患人口の増加が見込まれる心房細動により脳梗塞のリスクも高くなるため、早期発見・早期治療のための研究を行なっています(令和元年度- 3年「IoT等活用行動変容研究事業」)。
2014年の3月から欧米と同時にリードレスペースメーカーの治験を開始し、本邦で最初のリ―ドレスペースメーカを杏林で植え込み、治験結果がNew England Journalに掲載されました (N Engl J Med. 2016;374:533)。また、より生理学的なヒス束ペーシング、左脚ペーシングを積極的に行い、その結果を報告しています(JACC Clin Electrophysiol. 2021 Apr;7(4):513-521)。
不整脈センターでは毎週水曜朝に抄読会、勉強会を行い全員で知識の向上をはかるとともに、一週間で治療する患者検討を行っています。学生さん、研修医で不整脈にの研究参加を希望される場合、おご連絡ください。一緒に研究をしていきましょう。
心エコー班
坂田好美、南島俊徳、西智子、井坂葵、伊藤準之助
心エコーは、全ての心血管疾患の診断、病態評価、治療効果の判定に有用な検査です。当院では年間10000件前後の安静時経胸壁心エコー検査、300件以上の経食道心エコー、100件以上の負荷心エコーを施行し、虚血性心疾患、心不全、弁膜症、心筋症、先天性心疾患、肺血栓塞栓症、肺高血圧症、大動脈瘤などの疾患の診断、病態評価などをおこなっています。
一般的な安静時経胸壁心エコー検査のほか、運動やドブタミン負荷などの負荷心エコーや、3次元心エコーやスペックルトラッキング心エコーなど最新の技術を用いて、安静時の一般心エコーでは評価できない、より詳細な心機能評価を行い、病態評価、治療効果・予後評価を行っております。
また、肺高血圧症例、心房細動例、TAVI(経カテーテル的大動脈弁植え込み術)を含めたSHD (structure heart disease)症例、心アミロイドーシスを含む心筋症、抗がん剤治療関連心筋障害など、当院循環器内科に特有の疾患についても、その病態、予後、治療効果についての研究も行っております。現在当施設はMitraClip施行施設として申請中であり、今後Watchman deviceも施行予定です。SHD症例の治療に心エコーの重要性が現在高まっています。
現在の研究課題としては、以下の項目が挙げられます。
- 心不全症例における運動負荷心エコーを用いた運動負荷誘発性肺高血圧の意義―病態評価、長期予後に与える影響
- 運動負荷心エコーによるHFrEF, HFpHF症例における運動負荷誘発性肺高血圧、左房機能障害の検出と病態評価
- 3D Speckle-tracking心エコーによる肺高血圧症の右心機能評価および長期予後評価
- 3D 心エコーによる肺高血圧・慢性心房細動における三尖弁形態異常、機能異常の評価―右心機能、予後に与える影響について
- TAVI 前後の重症大動脈弁狭窄症例の左室収縮能および拡張機能の推移
- Speckle-tracking心エコーによる心アミロイドーシスの重症度評価
- Onco-cardiologyにおけるSpeckle-tracking心エコーの有用性
2022年4月よりエコーの迅速な診断体制を構築いたしました。緊急性がある場合、処置が必要な場合は主治医に連絡を入れることにより、治療に繋げております。エコー技師、エコー医が一体となり、着実にそしてともに進歩できるような環境を目指しております。宜しくお願いいたします。
肺高血圧班
グループ長 伊波巧 学内講師
現在肺高血圧症で外来通院中の患者さんの数は約220名で、多摩地区を中心に関東一円から通院されています。グループ構成員は5人と国内でも多く、年間の右心カテーテル検査は約500件、慢性血栓塞栓性肺高血圧症に対するカテーテル治療(経皮的肺動脈形成術)を年間約130件行っています。
フローランによる在宅持続療法を含めた肺高血圧症に対する治療を積極的に行っています。この治療の現在の総治療人数は約100名です。慢性肺血栓塞栓症に対しては、2009年からカテーテルによる血管形成術を施行しており、2020年3月までに約250名以上の患者さんを治療しました。
睡眠時無呼吸症候群の診断・治療も行っており、当グループでは心臓リハビリテーション、呼気ガス分析を併用した運動負荷試験もリハビリ科と共同で施行しております。
肺高血圧症の遺伝子治療に関する研究を進めており、早期の開始をめざしています。
循環器遺伝子解析は蒲生名誉教授や慶應義塾大学循環器内科講師の片岡雅晴先生と共同で行っており、肺高血圧症の原因遺伝子を模索しています。 不整脈、高脂血症における遺伝的異常も引き続き解析していきます。
カテーテル検査中に運動負荷試験をあわせて行っており、循環動態を検討することで、肺高血圧の早期診断に応用しています。
心不全班
グループ長 河野 隆志 臨床教授
研究は、より良い診療を心不全チームが提供しつづけるために重要です。
・多施設共同心不全レジストリ
当院が参加するWest Tokyo Heart Failure Registryは、臨床研究コーディネータによる支援のもと、良質なデータベースとして現在も発展しており、我々の大きな強みです。
具体的な報告をご紹介しますと、心不全患者さんに何気なく処方しているガイドライン推奨薬剤が、高齢者や腎機能障害の場合は必ずしも予後と関連しないことを報告しました。その結果は学会シンポジウムで大きく取り上げられ、高齢化社会における薬物治療の議論が活発に行われています。このような研究の原点は、若手医師が診療で感じる疑問から始まることが実は多いのです。臨床現場で生まれた疑問を解決すべく、研究デザイン立案・解析・学会[欧米主要学会]発表/論文作成まで、施設を越えた心不全・臨床研究の専門家が支援します。
近年は国際比較研究を推進しています。なぜかというと、本邦と欧米とで、心不全の特徴が違うことが指摘されてきたからです。米国ワシントン大学との共同研究では、突然死が少ないという本邦特有性を示す一方で、米国で開発された突然死予測リスクモデルが日本の患者さんでも当てはまることを証明しました。本邦の診療ガイドラインの根拠は欧米のevidenced-based medicine (EBM)に主に基づいているわけですが、欧米のEBMをそのまま外挿できる部分と、本邦独自のEBM発信が必要な領域を見極めながら、あらたな知見を臨床現場に還元し続けます。
・杏林大学単施設での研究
単施設で詳細に情報を取得することが、臨床の疑問の解決の近道となることも多々あります。血行動態や運動耐容能評価による病態把握、患者視点を踏まえた適切な意思決定支援の在り方などの研究も行っています。
・研究に興味がある学生の皆様へ
心不全チームは、熱意ある医学部生の臨床研究の参加を支援します。”創造的思考力” を育てるには臨床研究は絶好の機会です。興味のある方は、是非ホームページよりお問い合わせください。
その他
心臓MRIによる心筋梗塞の組織診断、肺塞栓の治療と予後評価、急性心筋梗塞の生化学的診断法、夜間無呼吸症候群と心不全の関係など、研究班の枠を越えたテーマもあり、さらに虚血性心疾患の発症のメカニズムに関する凝固線溶系の研究、心毒性抗癌剤の研究など循環器班と血液班との共同研究もあります。